「たまたま」出演者、亀島一徳さんにインタビュー!
市民スタッフFです。
たまたま出演者インタビュー、今回は多摩センター育ちのこのお方、亀島一徳さんです!
亀島一徳 1986年生まれ。東京都出身。小中高と多摩センターで育つ。ロロ所属。ロロには09年の旗揚げから参加し、ほぼ全作品に出演。映像も含め外部作品への出演も多数。近年の主な舞台出演作に、東京グローブ座で上演された『TOKYOHEAD~トウキョウヘッド~』、KUNIO12『TATAMI』、サンボン『口々』、木ノ下歌舞伎『勧進帳』『東海道四谷怪談―通し上演―』などがある。
ー亀島さんは多摩センターご出身ですが、ワークショップの発表会のときに、作品の中で若い頃に感じていた気持ちを台詞で言われていましたよね。亀島さんにとって、多摩センターはどんな街ですか?
僕、今30歳なんですけど、やっぱり10代とか20代前半の頃は今思うとあんまり地元に対してポジティブな感情は持っていなかったですね。なんならちょっと恥ずかしい、ぐらいに思っていました。
ーその気持ち、とってもわかります(笑)。わたしもかつてそういう若者の一人でした。でも、その“多摩コンプレックス”を感じている人もいるし、感じていない人もいるんですよね。
そうなんですよ。(コンプレックス)感じますよね?でも、周りを見てもみんながみんな感じているわけじゃないんですよね。
ーずっと住み続けている人もいるし、結婚して子供を産んで多摩で三世代で暮らしている人もいますもんね。その違いって、なんなんでしょうね。
ほんと、なんなんですかね。でも僕も年を取って30歳になって、正直あんまり地元について考えたりしていなかったんですけど、この「たまたま」の芝居を演るにあたって、地元についてもう一度考えることになって。街歩きしたり、いろんな人と地元について話してみたり。 「嫌い」っていうのは、まだ、“感情”があるじゃないですか。
ー無関心ではない、っていうことですよね。
そうです。無関心ではないので、何かしら思うところがあって。多摩センターも若い頃は全然おもしろくないな、って思っていたけど、自分も大人になって、歩車分離されていることの特別さとか重要さを感じるようにもなりましたね。
ー私も、それは多摩センターを出て行ってから感じましたね。以前町田マリーさんのインタビューでもその話題が出ましたが、あの歩道がしっかり確保された街で育つと、ちょっと平和ボケみたいなところが自分自身にあるんだな、って身体レベルで気付くというか。
どっちがいいんですかね。全世界が多摩センターみたいだったらそれでいいんですけど(笑)、そうじゃないじゃないですか。けっこう“特殊で過保護な状況”で。そういった環境で育ててもらえるのは幸せは幸せなんですけど。
ーその“過保護さ”って、外に出ないとなかなか気付けないですよね。
そうですよね。べつにずっとそこに居られるわけではないし。選び方によってはずっと居られるのかもしれないですけど。
たとえば高円寺で、僕くらいの年齢の男が昼間っからバンドT着てフラフラしていてもべつに何も言われないじゃないですか。そういう人はいっぱいいるし。でも、多摩センターでそれをやっていると、人を不安にさせるかもな、みたいな。
ーちょっと不審者扱いされるかも、みたいな(笑)
なんでこの人は平日の昼間にいて働いていないんだ、って。
ーそれはやっぱり“中央線カルチャー”があって、っていう街全体の文化ですよね。そういう文化に共鳴している人たちが住んでいる。でも、多摩センターにはそういう文化はないですもんね。
でも、ほんとはいろんな人がいるはずなんですよね。僕みたいに自由業の人もいるだろうし。勝手に僕がそう思っているだけかもしれないけれど、「圧倒的な正しさ」みたいなものがあるというか……。
ー「圧倒的な正しさ」とは?
安心・安全とか、豊かな緑がある、住宅ローンで持ち家がある、とか。そいうことが若い時はウザかったのかな。でもそうやって生きていける人って一部じゃん、って。そこからはみ出た人に対する寛容さが、ないわけじゃないんだろうけど……。
ーワークショップの発表会で亀島さんが「(若者が)買える服屋がないんだよね」って台詞を言っていたのが、すごく共感したところで。多摩センターって、そこで生まれ育った若者はもちろん、近隣にたくさん大学があって、若者の出入りも多い場所でそれなりの規模の街なのに、その層のニーズに応えるサービスがまったくないんですよね。若者にやさしくない街だな、って思って過ごしていました。除外されているというか。だから、単身の若年層は出て行ってしまう。
去年、ネットニュースで見て知ったんですけど、「多摩市と埼玉県の所沢市の30代単身者の転出」がとても多いらしいんです。
わかるな~~!僕、所沢も大学生のとき住んでましたもん(笑)。
ーマジですか!?二都市を制覇していますね(笑)
その世代に、所沢も多摩センターも向いてないんですよね。そもそもが。
ー対象とされていないんですよね。
そこに向けて作られてない、っていう。
ー「じゃあそりゃ出ていくよね」って話になりますよね。それは「街」の機能として、多摩センターの問題点の一つでもあると思います。働き盛りの世代には都心部への通勤がしんどい、という大きな要因ももちろんあるのですが。
今、「たまたま」の舞台の中で改めて故郷と向き合ってみて、どうですか?ポジティブな感情は湧いてきましたか?
ここから好きになっていくだろうな、って思いますね。もっと年を取ったときに、最終的に多摩センターに住むのか、というのは正直まだわからないんですが……。この劇を始めるときに、「好きか嫌いかわかんないな」って気持ちだったのが、今は「好き」寄りではあるかな、って。自分が年を取ったから、っていうのもあると思いますが。
ーご自身の中で、少し気持ちの変化があったんですね。 では、「たまたま」で演じられる役どころについて教えてください。
何役も演るんですが、さっき話したような、「多摩センターに物足りなさを感じている若者の役」も出てきます。
ーまさにそのものですね(笑)いちばんリアリティのある役ですね。
そうですね。半分ドキュメントみたいな役柄なので、同じように思っている若者が共感してくれたら、僕もさみしくないと思います(笑)。僕だけが思っていたことじゃないんだな、って。
ーおそらく、共感してくれる若者はいっぱいいるような気がします(笑)
では、最後に観に来てくださるお客様にメッセージをお願いします。
いろんな見方、いろんな視点の提示がされる劇だと思います。多摩センターの街に住む人がこのお芝居を観て、ああだよね、こうだよね、って言って楽しんでもらえたらうれしいですね。あと、知らなかった地元の歴史に出会ったり。街のポジティブなところ、ネガティブなところ、いろんな要素が詰まっているので、多摩ニュータウンに住んでいる人は興味深く感じてもらえる作品になっていると思います。
ー改めて多摩の街の再発見ができる舞台になりそうですね。ありがとうございました!
*
亀島さんの話を聞きながら、もう一人の自分と対話をしているような気持ちになりました。そして、ほんとうはもっと、多摩に住んでいた頃にこういう話を誰かとちゃんとしたかったんだ、と思っていたことに気付かされました。
亀島さんは劇中で何役も演じられますが、やはり、ご自身が若者だった頃に感じていた気持ちが投影された“モノローグ”の部分に、ぜひ注目していただきたいと思います。
ニュータウンは様々な問題を抱えているけれど、じゃあ、ここから、どんな風に変わっていけばいいのか。変われるのか。「たまたま」という舞台が、もう一度みんなで一緒に「街」について考えていくきっかけになればいいな、と改めて思いました。
「たまたま」、いよいよ開幕です!
《公演情報》 多摩ニュータウン×演劇プロジェクト「たまたま」
8月4日(金) 19時30分開演
8月5日(土) 14時開演/19時開演
8月6日(日) 14時開演 ※上演時間:2時間予定 パルテノン多摩 小ホール
http://www.parthenon.or.jp/act/2996.html
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