【多摩の魅力を紹介】一本杉公園でニュータウン以前の多摩を味わう〜江戸時代から平成へのタイムスリップ〜

多摩センターをはじめとする多摩ニュータウンは、自然をねじ伏せるようにして作られた近代的な街です。確かに緑は多いけれど、それもほとんど全て人工的に管理されたものです。

 

たとえば、誰もが「緑が多くていいな」と思う多摩中央公園…実はあそこに生えている木は、昔から多摩にあった木ではなく、元々生えていた木を一度伐採した上で他の場所から持って来た木を移植したものであることはご存じでしたか? 全ては「自然のように見える人工」であり、多摩中央公園は、間違っても多摩本来の自然を今に残すような場所ではないのです。

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ではニュータウンができる前の多摩を見たいと思ったら、どうすればいいのか? おそらく最も簡単なのは「よこやまの道」を歩くことです。

 

http://www.city.tama.lg.jp/16852/14/1050/002154.html

http://www.ur-net.go.jp/syutoken/nt/yokoyama.html

http://search.michi100sen.jp/b/michi_portal/info/C113018/?t=list

 

 

実際にはこの道もかなり人工的に整備・管理されたもので、決して自然のままではありません。しかしニュータウン開発以前の、人間の居住区と自然が適度に入り交じった、いわゆる「里山」の光景を再現したテーマパークのようなものだと思えば、かなり優秀な出来だと言えます。幾つかの場所では、多摩ニュータウンの主要地区を一望することもできます。

 

また、ここは「東京近郊でプチトレイルランが楽しめる場所」として、ランナー界隈ではちょっと知られたコースでもあります。ランニングが趣味の方なら、走りながら、多摩の自然と人工都市の境を楽しむことができます。連日30℃を超える今の季節は、積極的にオススメはしませんが…

https://pota-run.blogspot.jp/2009/09/blog-post_21.html

https://yamap.co.jp/activity/78355

http://kokko-san.blog.so-net.ne.jp/2015-06-13

 

走り終えたら、多摩センターのピューロランド裏にある「極楽湯」で汗を流すと良いでしょう。ここはちゃんとした天然温泉で、値段もそんなに高くないです。

https://www.gokurakuyu.ne.jp/tempo/tamacenter/

 

 

 

ただし、よこやまの道は、上のリンクをご覧になればお分かりの通り全部で10kmほどあり、あれこれ見物しながら歩いているとかなり時間がかかります。じっくり見ていけば半日はかかるでしょう。そこまでする気は無いが、里山の風景というものをちょっと覗いてみたい…という方にオススメなのが「一本杉公園」です。よこやまの道の途中に位置し、ニュータウン以前の多摩の光景を最もコンパクトに見られる場所です。

http://www.city.tama.lg.jp/16852/14/1050/002162.html

http://1000enpark.com/park/tokyo/tama/ipponsugi.html

http://www.natsuzora.com/may/park/ipponsugi.html

 

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一本杉公園へは多摩センター駅のバス乗り場(10番)から京王バス(多05)または神奈川中央交通(鶴32)のバスに乗って「一本杉公園」という停留所で降りてください。所要時間は6~7分です。そこから5分ほどで公園の入り口に着きます。

 

 

見どころは、まず旧有山家・旧加藤家という2つの古民家。元々多摩市の別の場所にあった旧家を移築したものです。メンテナンス上の問題から、屋根は茅葺きではなくスレートに替わっていますが、室内はほとんど昔のまま。旧加藤家の囲炉裏やかまどは、何と使用可能。グループで予約してかまどでカレーを作ったりしていることがよくあるそうです。料理パーティー(?)以外でもレンタル可能で、句会やお茶会なども開かれています。

http://www.city.tama.lg.jp/shisetsu/17997/015119.html

 

 

多摩センターの古民家と言えば、多摩中央公園内にある旧富澤家が有名ですが、あちらは室内での写真撮影禁止。こちらは撮影OKです。また、あちらは名主の家なので、当時のちょっとした豪邸ですが、こちらはもっと庶民的で、江戸時代の農民の生活をリアルにイメージすることができます。

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旧加藤家では、何とニワトリが飼われています。もちろん家に人は住んでいませんが、管理人さんがいるので、ニワトリの世話もしているのでしょう。しかもこのニワトリ、小屋こそありますが完全な放し飼いです。しばしば遠くまで散歩に行くそうで、行っても会えない場合もあります。自由すぎるニワトリです。私もニワトリに生まれ変わるのであれば、この家のニワトリに生まれたいと思っています。

移築され、展示物として公園内に立つ古民家。十分に不自然で人工的な存在なのに、申し込めば昔ながらの囲炉裏やかまどが実際に使用可能で、飼われているニワトリは自然の樹木と人工的に整備された公園の間を自由に動き回っている…この自然なのか不自然なのかよく分からない光景こそ、多摩ニュータウンを象徴するもののように思えます。

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すぐ近くには池があります。おそらく人工的に作られた浅い池ですが、カモやコイ、カメなどがたくさんいて、まるで時間が止まったかのような、一種独特としか言えない不思議な雰囲気を醸しだしています。

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古民家や池がある下の方にも、わけの分からない空間が広がっています。まず、斜面にいるのは、本物の生きたヤギです。最近流行っているのですが、エコロジカルな除草としてヤギに草を食べさせているのです。実は多摩センターの駅の近くの斜面にもいますが、あそこは地形上あまり近づけないし、そもそも通り道から離れているので、ヤギがいることにもまともに気づきません。しかしこちらのヤギは目と鼻の先にいます。よほど人に慣れているのか、眺めていると向こうから積極的に近づいてきます。ネットは張られていますが、その気になれば触ることも可能なほど間近でヤギを見ることが出来ます。

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実は文章の順番とは逆に、このヤギたちを先に撮影して、それから上にある古民家や池の方に向かったのですが、古民家の撮影を終えると、何とヤギたちが斜面をのぼって上まで来ていました。そして私が帰ろうとすると後を追ってきて悲しそうに鳴きます。完全に惚れられてしまったようです。私が山羊座生まれだとわかったのでしょうか。しかし肉好きの私とベジタリアンの彼女たち(本当に女性かどうかは不明)が生活を共にして幸せになれるとは思えません。彼女たちの熱い思いを振り切り、また会いに来ると約束して別れました。

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↑ どう見ても恋する者の目です 

 

 

ヤギたちがいる斜面の脇には「炭焼き小屋」があります。これも昔からあるものではなく再現されたものですが、実際に使うことができて、古民家のかまどと同様、いろいろなイベントが開かれているそうです。

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その隣には梅林が広がっています。実際に梅がなっていますが、特に収穫されることもなく、下に落ちて腐っていきます。

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そのすぐ近くにあるのは、何かの遺跡のような石のテラス。その屋根にからむ植物は…何とキウイです、キウイ。梅林のすぐ脇にキウイです。何が何だか分かりません。何故ここにこんな石のテラスがあるのか? しかも何故そこにキウイなのか? 梅林の隣にキウイ…全てが意味不明です。そんな意味不明な建築やオブジェが突如として出現するところが、あまりにも多摩ニュータウンです。

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話はそれますが、意味不明なオブジェと言えば、パルテノン多摩の真上にあるきらめきの池。そのすぐ脇に、こんな不思議なオブジェがあります。「吾知唯足(われ ただ たることをしる)」。有名な禅の教えです。しかし何故きらめきの池に、唐突に禅の教えなのでしょうか。他にそれに類するものは見あたりません。ただこれだけがポツンと存在しています。意味が分かりません。誰がどんな理由で、ここに禅の教えを置いたのか…ニュータウンの怪です。

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一本杉公園の話に戻りましょう。石のテラスや梅林のすぐ脇には鬱蒼とした木が茂っています。この辺の木は、人の手で管理はされているにせよ、昔から多摩に生えていた木だろうと推測されます。階段を上ると、「よこやまの道」の一部につながります。まるで天狗が出てきそうな雰囲気ですが、実は少し行くと車の通る道にぶつかります。

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そしてこのすぐ脇にある道を境に町田市になります。もう少し東へ行けば川崎市。ここから町田や川崎の方に向かうと、ニュータウン開発とは全く無縁な自然が残っていて、見事に片田舎の風景になります。様々な意味で多摩ニュータウンの周縁と言える場所です。夜になれば当たり前のようにタヌキがうろついていることでしょう。ジブリアニメ『平成狸合戦ぽんぽこ』でも、ニュータウン開発で住みかを追われたタヌキのうち、化けられないものは町田の方に逃れていったことになっています。この辺りの風景を見ていると、その物語の意味がよく分かります。

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この後、お時間があれば、鎌倉街道にぶつかるまで「よこやまの道」を約1km(15~20分)歩くと良いと思います。右手に「ニュータウン以前の多摩」左手に「ニュータウン以後の多摩」を眺めながらの貴重な散策ができるはずです。

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この他にも、夏休み期間中だけ水が流れる人工のせせらぎや、「石の広場」なるものもありますが、ちゃんと取材していないので、詳しくは最初の方のリンク先でご確認ください。

私が行ったときはまだ水が流れていませんでした。

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隣接する形で「一本杉公園野球場」があります。以前はプロ野球の試合でも使われ、江夏豊の引退セレモニーまで行われたそうですが、現在は、高校野球をはじめとするアマチュア戦での使用が主体になっています。確かに、プロ野球の会場としてはちょっとしょぼいけれど、アマチュア用には豪華な印象を覚えました(外からちょっと覗いだたけの感想ですが)

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帰りは同じ停留所の反対側から多摩センター駅に戻れますが、できれば帰りは30分ほどかけて多摩センターまで歩いて行くことをオススメします(さすがに夏は暑いと思いますが)。

と言うのも、一本杉公園で「江戸時代の多摩」の雰囲気を味わい、その後、かつてのニュータウンを象徴する昭和チックな「団地」を抜けて、近代的な多摩センター駅まで来ると、わずか30分で300年分のタイムスリップ感覚を味わえるからです。これは実際にやったことがあるので、保証します。「ニュータウン以前の多摩とニュータウン以後の多摩を最もコンパクトに味わえるコース」だと言えます。

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また、そのコースを辿って歩いてくると、極めて人工的に作られた多摩中央公園の緑が、今では紛れもなく鎮守の森のような役割を果たしていることが実感できます。

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考えてみると、東京屈指のパワースポットとしてもてはやされている明治神宮も、元はただの畑だった場所に、全国から(それどころから大陸からも)樹木を持ってきて移植し、人工的に森を造成して作り上げた施設です。しかもそれからまだ100年も経っていません(明治神宮の創建は1920年)。つまり明治神宮と多摩中央公園は、非常によく似た性格を持った施設なのです。そして明治神宮がパワースポットと呼ばれているように、多摩中央公園の森も単なる街路樹の域を超えた神聖さを帯びつつあります。

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最初に、多摩中央公園の緑が実は多摩本来の自然ではないことを否定的なニュアンスで書きました。しかしそのような人工的な自然でも、数十年の時を経て、その土地に根づいてくれば、それはもはや新しい自然であり、一種の霊性すら帯びてくるのではないか…そんな風に「そもそも自然とは何なのか?人工と自然の境はどこに存在するのか?」といったことまで深く考えさせられることになります。

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明治神宮と多摩中央公園がよく似た性格を持つ施設…ということで言えば、「パルテノン多摩」は文字通りの意味で神殿=神社とみなせるでしょう。そして今回上演される『たまたま』は「神楽」だと言うことになります。現在の多摩ニュータウンに生きる人々の生活はもちろん、旧来の自然を征服して生み出された新たな自然、そこに宿る地霊までもが招喚された作品となっているかどうか…ぜひその目でご確認ください!

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市民スタッフのマサトでした。

 

 

 

《公演情報》 多摩ニュータウン×演劇プロジェクト「たまたま」

 

8月4日(金) 19時30分開演 

8月5日(土) 14時開演/19時開演 

8月6日(日) 14時開演 ※上演時間:2時間予定 パルテノン多摩 小ホール 

 

http://www.parthenon.or.jp/act/2996.html

 

 

 

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